Subject   : piRNA

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 piRNA
 RNAサイレンシング機構のひとつとして知られるpiRNA経路は,動物の生殖巣において,おもにトランスポゾンの発現の抑制に機能する.piRNAは約30塩基の小分子RNAで,配列に相補性のあるトランスポゾンRNAへとPIWIタンパク質をガイドすることにより,転写レベルおよび転写後レベルにおいてその発現を抑制する.piRNA経路にかかわる因子の欠損はトランスポゾンの活性化や配偶子の形成不全をひき起こすことから,piRNA経路は生殖細胞のゲノムの完全性を維持するうえできわめて重要な役割を担うと考えられている.これまでの精力的な研究により,多数の因子が関与する複雑なpiRNA経路の全体像がしだいに明らかにされてきた.

 ヒトのゲノムの約45%は,トランスポゾンとよばれる転移因子やその残骸からなるくり返し配列によりしめられることが明らかにされている.トランスポゾンは,自らの配列を切り出し別の部位に転移するDNA型トランスポゾンと,自らの配列からの転写産物をDNAへと逆転写し,新たな部位へと挿入することにより増幅するレトロトランスポゾンとに分類される.これらトランスポゾンの活性は,遺伝子の多様性の獲得やゲノムにダイナミックな変化をもたらすことにより生物の進化に寄与してきたと考えられている.その一方で,トランスポゾンの転移は遺伝子の発現を撹乱したり遺伝子の変異をひき起こしたりするため,正確な遺伝情報の維持のため,その活性は適切に制御されなければならない.通常,トランスポゾンの領域はDNAメチル化や抑制性のヒストン修飾により転写が抑制されているが,動物の生殖細胞には,さらにRNAサイレンシング機構によりトランスポゾンを抑制するしくみとしてpiRNA経路が存在する.その中心となるのが,piRNA(PIWI-interacting RNA)およびそのパートナーであるPIWIタンパク質(PIWI)である.piRNAとPIWIは複合体を形成し,主として標的となるトランスポゾンの発現を転写レベルおよび転写後レベルで抑制する.これによりトランスポゾンの脅威から生殖細胞のゲノムを保護し,次世代への正確な遺伝情報の継承を保障する.また,piRNA経路により抑制されるべきトランスポゾンなどの非自己に由来する配列の一部は,生殖細胞を介して次世代へとうけつがれることも明らかにされている.

<出典:ライフサイエンス 領域融合レビュー>

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 ⇒ RNA(Ribonucleic acid)の種類

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