Subject   : マトリックス分解酵素(MMP)

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学 


 マトリックス分解酵素(MMP)
 細胞はどうして分解されるの?

 生理学的及び病理的な組織破壊に重要な役割を果たしているのは、 マトリックス分解酵素で、細胞外マトリックスを分解する酵素の総称です。
 MMPの其質は細胞を固定、接着させる細胞外マトリックスであり、具体的には各種タイプのコラーゲンプロテオグリカンゼラチンラミニン、エラスチン、などを含みます。
 正常状態でのマトリックスの合成と分解は、各種サイトカイン、増殖因子、細胞マトリックスの相互作用によってバランスが保たれています。しかし病的状態ではリウマチなどのように無秩序な軟骨の破壊を来たし、また、MMPは歯周病や角膜炎などの原因物質としても考えられています。

 おたまじゃくしのしっぽからコラーゲナーゼが発見されて以来、さまざまな細胞外基質に対する分解活性を指標にMMPの精製が進められ、基質特異性の相違によって分類されてきました。
 細胞の増殖、分化、死、形態変化、運動などの機能も、組織では増殖因子やサイトカインなどの可溶性因子とそれらの受容体によってのみ制御されるのではなく、細胞外基質への接着によって生じるシグナルとのクロストークの結果であることが明らかになりつつあります。
 また一方で、細胞外基質はこれらの可溶性因子の貯蔵庫としての役割も持っており、細胞外基質の分解によってこれらの因子が放出されると、周辺の細胞機能が抑制されます。
 細胞移動は胎生期での器官形成、出生後の発育、創傷治癒過程など組織の構築、改築の必要な場で中心的な役割を担っています。この時期には、移動にとって最適な細胞外基質の発現とともに、細胞外基質分解活性を持つMMPの発現が欠かせません。

 その発現は、よく制御されており、細胞移動の終息とともに認められなくなります。一方で、癌浸潤での細胞移動は終息制御の無い細胞移動と言い換えることができますが、MMPはここでも不可欠な役割を果たしています。癌の転移では、細胞浸潤は間質内移動、脈管内侵入、脈管外遊出と複数のステップに関与しているので、転移制御の上では重要なターゲットと考えられています。
 分泌型MMPによってコラーゲンの骨組みが疎開した組織ではグリコサミノグリカンが水加(hydration)によって膨潤し、癌細胞の移動に有利な疎で適度な粘性を持った間質をつくり出します。また、MMPによって生じる細胞外基質成分の分解産物が足場のみならず、遊走惹起刺激、あるいは方向性をも供給することも知られています。
 細胞浸潤機構を多角的に追求することによって、MMPインヒビターと遊走刺激リガンドあるいはMMP発現刺激リガンドの拮抗阻害剤の使用といった集約的癌治療の組み立てが可能になることが期待されています。

 ⇒ タンパク質の機能と変性

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