Subject   : プレセニリン(Presenilin)

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 プレセニリン(Presenilin)
 プレセニリン1 (presenilin 1, PS1)、プレセニリン2 (presenilin 2, PS2)は家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として、1995年に同定された。PS1(第14番染色体)、PS2(第1番染色体)はそれぞれ467、448アミノ酸からなる8回貫通型の膜タンパク質で、両者の構造は非常によく似ており、細胞内では主に小胞体やゴルジ体に局在している。我々は374アミノ酸からなるPS1の新しいアイソフォームを同定したが、これは、通常読まれないはずのエクソン11が挿入されたために起こったフレームシフトと終止コドンによるものであると考えられる。

アミロイドβ蛋白(Aβ)の中で、アルツハイマー病の脳では正常ではあまり 産生されないAβ42がアミロイドとして沈着しています。アミロイドとして脳内に沈着するのは脳実質にある老人斑と血管の付着している血管アミロイド(アミロイドアンギオアパチー)があります。アミロイドの化学構造や、原因遺伝子の研究は家族性アルツハイマー病の原因遺伝子の研究から始まり、紆余曲折の末にやっとプレセニリン1(Presenilin1)(第14番染色体)、プレセニリン2(Presenilin2)(第1番染色体)というタンパク質分子が同定されましたが、これらの分子はAPPからAβを切り出すプロテアーゼとして働いていて、その遺伝子変異はAβ42の産生を高めることが知られています。 。

 アルツハイマー病の脳に沈着するAβはその前駆体であるAPPからβ-セクレターゼおよびγ―-クレターゼと呼ばれるプロテアーゼ群によって切り出されてくるが、プレセニリンはそのγ-セクレターゼの活性本体ではないかと考えられている。プレセニリンに異常が起こると、γ-セクレターゼによるAPPの切断位置が2アミノ酸だけC末側にシフトし、正常ではあまり産生されない長いAβが生み出されるようになる。このAβ(Aβ42)は正常のAβ(Aβ40)よりも凝集しやすく脳に沈着しやすい。家族性アルツハイマー病で見られる数多くのプレセニリン変異はいずれも、Aβ42の産生を高めることが知られている。

 プレセニリンはまた、神経系の発生過程に働くNotchシグナリングにおいて、Notchの細胞内ドメインを切断するプロテアーゼとして働いていることも指摘されている。事実、PS1、PS2ダブルノックアウトマウスではγ-セクレターゼ活性、Notch切断活性いずれも消失することが示されている。プレセニリンのプロテアーゼ活性には、6番目と7番目の膜貫通ドメインに存在する2つのアスパラギン酸残基が重要であるらしい。我々はプレセニリン類似タンパク質の系統発生学的な解析を行い、これら2つのアスパラギン酸は線虫からヒトに至るまですべての種において保存されていることを見出した。

■ γ-セクレターゼ
γ-セクレターゼは膜内で蛋白を切断する特異なプロテアーゼであり、その分子量から高分子の蛋白複合体であると考えられていたが、最近、プレセニリン以外の構成蛋白として、ニカストリン(nicastrin)を始め、aph-1やpen-2などの蛋白が同定された。ニカストリン(第1番染色体)は709アミノ酸からなる1回貫通型膜タンパク質で、やはりNotchシグナリングに関係しているらしい。プレセニリンとニカストリンは互いにその活性を調節し合っていることが示唆されている。アルツハイマー病の原因解明および治療薬の開発において、γ-セクレターゼ・コファクターの探索は、今後の重要な研究課題の1つである。

 ⇒ アミロイドβ蛋白

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