Subject   : 生体内の高エネルギー化合物

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 生体内の高エネルギー化合物
 生体内でのエネルギー変換物質としては,上で述べたATPが最も重要である。ATPのように,加水分解反応で大きな僭oの減少を伴う化合物 を,高エネルギー化合物と呼ぶ。F. Lipman & H. KalckarはATPを「全ての生物の高エネルギー通貨」と呼んだ (1941年)。ATPよりもADP+リン 酸の方がよりエネルギー的に有利な理由を次に示す。

1. 加水分解産物は共鳴で安定化するが,無水物型は安定化できない。
両方のリン原子が酸素原子の 非共有電子対を引き合うため、 共鳴安定化ができない。
2. 無水物型では2つのO−部分が静電的に反発し,エネルギー的に不利である(上の図の青で示す)。これは加水分解により解消される。
3. 水和エネルギーは,無水物型よりも加水分解産物のほうが大きい。


それでもATPが水の中で安定に存在できるのは、ATPの酸無水物結合の加水分解の 活性化エネルギーが高いためである。ただし,酵素があれば簡単に加水分解される。 生理的条件下(pH=7.0)では,ATP,ADP,Piの濃度はそれぞれ数mMであ り,ATPの加水分解の僭は約-50 kJ/molにも達する。注意して欲しいのは,ATP は「貯蔵エネルギー」ではなくて,「交換用のエネルギー」であることで,細胞内 の濃度には上限がある。従って,細胞内ATP濃度が上昇するとATPはエネルギー生 産の種々の段階の酵素を阻害して,その生産を抑制する。  このように,ATPはエネルギー物質として全ての生物に利用される。ATPは嫌気 的生物では解糖で,好気的生物では解糖,光合成,酸化的リン酸化でつくられる。  高エネルギー化合物の中ではATPは中程度に位置する(下表)。もしATPが最上 位の化合物であれば,ATP自体をつくるのが困難になるであろう。

化合物 僭o(kJ/mol)
ホスホエノールピルビン酸 -61.9
1,3-ビスホスホグリセリン酸 -49.4
アセチルリン酸 -43.1
ホスホクレアチン -43.1
ATP/AMP -32.2
ATP/ADP -30.5
グルコース 1-リン酸 -20.9
フルクトース 6-リン酸 -13.8
グルコース 6-リン酸 -13.8
グリセロール 3-リン酸 -9.2


 ⇒ β酸化(ベータ酸化)

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