Subject   : レトロウイルス

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学


 レトロウイルス
レトロウイルスは、標的とする宿主の細胞内に入ると、RNAと逆転写酵素という酵素を放出し、ウイルスRNAを鋳型としてDNAをつくり、そのウイルス由来のDNAを宿主細胞のDNAに組みこませます。この過程が、DNAを鋳型としてRNAをつくるという人間の細胞で起こるパターンと逆であることから、逆向きを意味する「レトロ」と名づけられています。一方、遺伝情報をRNAに蓄えるウイルスのうち、ポリオやはしか(麻疹)などのウイルスはDNAを合成することはなく、ウイルスRNAの複製だけをつくります。
宿主細胞は分裂するたびに、自身の遺伝子とともに組みこまれたウイルス由来DNAの複製もつくっていきます。ウイルスDNAは潜伏して危害を加えないこともあれば、活性化して細胞機能を乗っ取り、新たにウイルスをつくらせることもあります。こうして産生された新しいウイルスは、感染細胞の外へ出て別の細胞に侵入します。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、レトロウイルスです。

■ HIVの場合
体内に入ったHIVは数種類の白血球に付着しますが、特に重要なのがヘルパーT細胞への付着です。ヘルパーT細胞は、免疫システムのさまざまな細胞を活性化させ、その働きを調整する役目をもっています。ヘルパーT細胞の外膜には「CD4」と呼ばれる受容体タンパク質があります。このためヘルパーT細胞は「CD4+」と表記されます。HIVは遺伝情報をRNAに蓄えており、いったんCD4+リンパ球に侵入すると、「逆転写酵素」と呼ばれる酵素を使って自分のRNAにある遺伝情報をDNAにうつしていきます。こうしてウイルスDNAは感染したリンパ球のDNAに組み入れられ、細胞内のウイルスはリンパ球の増殖のしくみに乗って自らを増殖していき、やがて細胞を破壊してしまいます。感染細胞ごとに複製された何千もの新しいウイルスは、さらに他のリンパ球に感染し、破壊していきます。こうして数日から数週間のうちに、リンパ球の数を減らし、他の人への感染力をもつほどにHIVは増殖します。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は他のすべてのウイルスと同様に、その宿主細胞(通常はCD4+リンパ球)の遺伝装置を使って増殖(複製)します。
HIVは、まず標的とする細胞に付着して侵入します。 HIVはウイルスの遺伝情報であるRNAを細胞内に放出します。ウイルスが自己複製するには、自分のRNAをDNAに変える必要があります。この変換を行う酵素を「逆転写酵素」といいます。逆転写酵素はウイルスRNAをDNAに変換する過程でエラーを起こしやすいので、HIVはこの時点で容易に突然変異を起こします。 変換してできたウイルスDNAが細胞核へ入りこみます。 「インテグラーゼ」という酵素の助けを借りて、ウイルスDNAが宿主細胞のDNAに組みこまれます。 そのDNAは転写され、ウイルスRNAやタンパク質がつくられます。タンパク質は長い鎖の形になっていて、ウイルスが細胞外に出た後に切断されます。 新しいウイルスがRNAと短いタンパク質から組み立てられます。 ウイルスが細胞膜から出芽し、細胞膜の断片(エンベロープ)の中に自身を包みこみます。 他の細胞への感染力をもつには、出芽して細胞外に出たウイルスは成熟する必要があります。「HIVプロテアーゼ」と呼ばれるウイルスの酵素がウイルス内の構造タンパク質を切断し、それらを再び並べ替えて初めて成熟HIVになります。

 ⇒ ウイルス

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