Subject   : がん抑制遺伝子

カテゴリー  : 学術情報 > 生化学 


 がん抑制遺伝子
がんを促進する遺伝子に対して、がんを抑制する遺伝子を持つことがわかってきたのです。網膜芽細胞腫という病気は、光を感知する眼の網膜の細胞のがんです。網膜芽細胞腫の細胞では、13番染色体の一部が欠落していることがわかりました。さらに、この欠落と、網膜芽細胞腫の発症はよく相関していることが示されました。この事実は、13番染色体のある遺伝子がなくなることにより、がんになることを示しています。すなわち、その遺伝子は普通はがんになるのを抑制していると考えられます。この「がん抑制遺伝子」は、網膜芽細胞腫の英語名の頭文字をとってRb遺伝子と名付けられました。 では、Rb遺伝子は、一体どのようにがんを抑制するのでしょうか?調べてみると、Rbタンパク質も、がんを抑制することが本来の働きではなく、正常細胞の細胞周期の進行を制御する重要な因子であることがわかってきました。Rbタンパク質は、通常転写因子と結合してその機能を抑えています。G1期すなわちDNA複製開始の前に、Rbタンパク質はリン酸化されます。このリン酸化により、Rbタンパク質はそれまで結合していた転写因子を解放します。自由になった転写因子は、DNA複製開始に必要な遺伝子群の発現をスイッチオンし、増殖を促進します。Rb遺伝子が欠損すると、転写因子がいつもオンになってしまい、増殖の制御が失われ、がん化すると考えられます。

もうひとつの重要ながん抑制遺伝子は、p53と呼ばれるタンパク質です。このタンパク質は、元々ウィルスにコードされるタンパク質に結合する細胞由来のタンパク質として同定されました。その後、p53はヒトのすべてのがんをおしなべて、約50%の例で変化していることがわかり、がん発生においてもっとも重要な役割を担う遺伝子のひとつであると考えられています。p53は、がん化において、また正常細胞の増殖においてどのような働きをしているのでしょうか?p53は、「遺伝子の見張り役」をしていることがわかってきました。DNAは常に傷を受けています。p53は、DNAに傷がつくとその信号をキャッチして、一時的に細胞周期の進行を停止します。細胞が増殖をとめている間に、DNAの「修復屋さん」が仕事にとりかかります。DNAが無事修復されると、細胞の増殖が再開します。p53が働かないと、見張り役がいなくなるため、DNAに傷がついても気がつかずにどんどん増殖が進んでしまい、傷は、DNA上の永久的な変化(変異)として固定されてしまい、上述のがん原遺伝子の活性化などを引き起こしがん化に至るわけです。 これまで見てきたように、細胞のがん化は、アクセル役であるがん遺伝子と、ブレーキ役であるがん抑制遺伝子の変異により説明されます。遺伝子に複数回の変異が生じた結果、アクセルが入り放しになり、ブレーキが壊れ、細胞が暴走しがんになると考えられます。

種類 メモ
APC 大腸ガン・胃ガン・膵ガン、家族性大腸腺腫症
BRCA-1 卵巣ガン・乳ガン
DPC-4 大腸ガン・膵ガン
FHIT 胃ガン・肺ガン・子宮ガン
INK4 家族性黒色腫
MLH1、MSH2 遺伝性非ポリポーシス大腸癌
MEN1 多発性内分泌腺腫症T型
NF 神経繊維腫症
p53 すべてのガン
p73 神経芽細胞腫
Patcded 基底細胞ガン
Rb 肝ガン・骨肉腫、網膜芽細胞腫
PMS 遺伝性非ポリポーシス大腸癌
TP53 Li−Fraumeni症候群
WT1 Wilms腫瘍


 ⇒ がん発生防止の仕組み

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