Subject  : アルコール依存症(アルコール中毒)

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 アルコール依存症(アルコール中毒)
アルコール依存症(アルコール中毒)は最も極端なアルコール障害です。大量に酒を飲む、飲酒をやめられない、社会的にも仕事にも悪い影響が出ているにもかかわらず飲酒を続けるなどの特徴があります。男性がアルコール依存症になる率は女性の4倍です。
飲酒をする人のうち、約10%がアルコール依存症になります。アルコール依存症になる人は大量のアルコールを長期間にわたって定期的に飲んでいて、アルコールに依存しています。1日平均どの程度の量を飲むとアルコール依存症になるかは人によって異なりますが、女性で1日2杯、男性で3杯程度の少ない量でもアルコール依存症になることもあります(1杯とは、ビールなら約350ミリリットル、ワインなら約150ミリリットル、ウイスキーなどの蒸留酒なら約45ミリリットル)。アルコール依存症の人には、飲むなら5杯以上徹底的に飲む日が多く、ほとんど飲まないか、まったく飲まない日は数日しかないというタイプも多くみられます。

 【症状】
アルコール離脱症状を治療しないで放置した場合、振戦せん妄(DT)が起こります。通常、振戦せん妄はすぐには発症せず、禁酒を開始してから約2〜10日後に生じます。振戦せん妄になると、まず不安が生じ、その後ひどい錯乱、不眠、悪夢、大量の発汗、重度の抑うつが生じます。心拍数が速まりがちになります。発熱もみられます。症状が高じると、現れては消える一過性の幻覚や、恐怖感や不安をかきたてる幻想が現れ、幻視を伴う失見当識がさらに恐怖感をあおります。薄暗いところで何かが見えることなどが特に恐ろしく、極度の錯乱状態に陥ります。床が動く、壁が落ちる、部屋が回転するなどという人もいます。振戦せん妄が進行すると、手が絶えずふるえ、それが頭や体に広がって重度の協調運動障害になります。振戦せん妄は、治療しないで放置すると死に至る場合があります。
このほか、アルコールが脳や肝臓に及ぼす毒性作用に直接的に関係して起こる問題もあります。アルコールを長期にわたって大量に摂取すると、アルコール性肝疾患になります。肝臓がアルコールで損なわれて有害物質を体外に排出できなくなると、肝性昏睡が生じます。肝性昏睡になると、動作が緩慢になったり、眠気、昏迷、錯乱、羽ばたき振戦などの症状が現れます。肝性昏睡は生命にかかわる状態であり、ただちに治療する必要があります。

コルサコフ症候群(コルサコフ健忘性精神病/精神疾患)は大量のアルコールを定期的に飲む人に起こりますが、特に栄養状態が悪い人やビタミンB(特にチアミン)が不足している人に多くみられます。コルサコフ症候群になると、最近の出来事の記憶を失います。記憶力がひどく低下するため、思い出せないのを隠そうとして、勝手に話を作ることがよくあります(作話)。ときに、コルサコフ症候群が振戦せん妄の発作後に起こることがあります。ただちにチアミン不足を改善しないと、死に至る場合もあります。コルサコフ症候群の人の中には、長期間にわたる大量飲酒からチアミンが不足し、ウェルニッケ脳症を併発する人もいます。異常な眼球運動(眼振)、錯乱、協調運動の異常、痛みに対する感覚の低下などの症状が突然起こります。
アルコール障害は慢性のふるえを引き起こします。協調運動をつかさどる脳の領域(小脳)がアルコールによって損なわれるため、手足の動きをコントロールできなくなります(小脳変性症)。脳神経を覆うさや(髄鞘[ずいしょう])にダメージを与え、マルキアファーヴァ‐ビニャミ病というまれな病気を引き起こすこともあります。この病気になると興奮して錯乱し、痴呆になります。発作を起こし、昏睡して死に至る場合もあります。

 【診断と治療】
行動に原因不明の変化が生じたり、自己破壊的な行動がみられる場合は、アルコール障害の疑いがあります。また、高血圧や胃炎などの内科疾患に対して普通の治療が効かない場合もアルコール障害が疑われます。 血中アルコール濃度を測定して確認します。アルコール値は血液検査で測定するか、呼気中のアルコール濃度から見積もることができます。

耐えがたい離脱症状が出て治療を受けにきた人には、緊急治療が必要になります。また、血中アルコール濃度が高くなって症状が現れ、病院に運ばれてくる人もいます。普通、アルコール依存症の人は離脱症状が出ると、飲むことで症状を抑えようとしますが、酒を断ちたいと思っている場合や、離脱症状があまりにも激しい場合には、自分から治療を求めて病院にやってきます。ビタミン不足は生命にかかわる症状を引き起こすため、救急治療室ではビタミンCとB群、特にチアミンを大量に静脈内に注入します。アルコール離脱症状を抑えて脱水を防ぐために、補液を行い、マグネシウム、ブドウ糖が投与されます。
興奮を鎮めて離脱症状を抑えるために、医師はしばしば数日間分のベンゾジアゼピンを処方します。アルコール性幻覚症がある場合には、抗精神病薬を投与します。振戦せん妄は生命にかかわるおそれがあるため、発熱や激しい興奮を抑える治療を積極的に行います。補液、解熱薬(アセトアミノフェンなど)、鎮静薬を使用し、注意深く容体を見守る必要があります。たいていの場合、このような治療で振戦せん妄は発症から12〜24時間以内に消失します。
解毒とリハビリテーション: 緊急を要する容体が治まったら、解毒治療とリハビリテーションを開始します。治療の第1段階では、アルコールの摂取を完全に断ちます。次に、アルコール依存症の人が自分自身の行動を改めることが必要です。手助けがなければほとんどの人は、数日から数週間のうちに再び飲酒を始めてしまいます。治療内容は各人のケースに合わせて決めていきます。家族が積極的にサポートすることも大切です。
アルコール依存症患者に飲酒をやめさせるには、ときに処方薬のジスルフィラムが役立ちます。この薬は3〜7日間にわたってアルコールの代謝を阻害するため、アルコールが分解されるときにできるアセトアルデヒドが血液中に蓄積されていきます。アセトアルデヒドの作用により、飲酒後5〜15分以内に顔が赤くなり、激しい頭痛、心拍数の増加、速い呼吸、発汗などの症状が現れます。30分から1時間後には、吐き気や嘔吐の症状が出ることもあります。このような不快で危険を伴う状態が1〜3時間続きます。ジスルフィラムを服用した後に飲酒することから生じる不快感は非常に強いので、大半の人があえて飲もうとはしなくなり、市販のせき止め、かぜ薬、食品などに含まれている少量のアルコールさえ口にしようとしなくなります。
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